大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1355号 決定 1979年4月12日

抗告人(債権者) 株式会社南海商会

右代表者代表取締役 森下マキエ

相手方(債務者) 株式会社グローバルインペックス

右代表者代表取締役 山田都世子

主文

原決定のうち抗告人の申請を却下した部分を取り消し、「請求債権の表示」欄の「一金三三万六、九八六円也」の次の項に「一金一万〇、七〇〇円也但し、公正証書第七条による費用」を加え、その末尾に「右合計金一、〇三四万二、九八六円也」とあるのを「右合計金一、〇三五万三、六八六円也」と、同決定添付「差し押うべき債権の種類及び数額の取立目録」中「一金一、〇一四万二、九八六円也」とあるのを、「一金一、〇一五万三、六八六円也」と改める。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

よって、検討するのに、記録によれば、大阪地方法務局所属公証人前田覚郎作成にかかる債権者抗告人債務者相手方間の昭和五三年第一、五四二号「債務承認及びその履行に関する契約公正証書」正本には、第一条ないし第五条に、相手方が抗告人に支払うべき債務として金一、〇〇〇万円及びその遅延損害金等の支払いに関する約定が、第六条にいわゆる執行受諾文言が、第七条に、「本件公正証書作成に要する費用金一万〇、七〇〇円也は債務者の負担とする。」との文言が記載されていること、並びに抗告人は、同年一一月三〇日相手方を債務者、株式会社東恵を第三債務者として、前記公正証書作成に要する費用一万〇、七〇〇円が執行費用に含まれる請求債権であるとして東京地方裁判所に対し債権差押及び取立命令の申請をしたところ、同裁判所は、「右費用は民事訴訟費用等に関する法律の定める費用に該当しないことが明らかであり、また、前記公正証書第七条の記載文言をもっては、債務者が債権者に対し一定金額の支払債務を負担することを表示したものとは解されないから、右一万〇、七〇〇円については債務名義が存在しないものというべきである。」との理由を付して、右公正証書作成費用に関する申請部分を却下したことが明らかである。

そこで、原決定の当否について判断するのに、当裁判所も、右公正証書作成費用が民訴法五五四条一項にいう執行費用に含まれないとの原審の判断は正当であると考える。しかし、同費用の負担条項がその文言からみて債務名義にならないとの原審の判断は相当でないと思料する。すなわち、訴訟、裁判上の和解、調停等において費用の支払義務を定めるに当っては、通常「負担とする。」という用語例が使用されているが、この場合「負担とする」との文言は、費用償還についての給付を命じ、又は費用の支払いを約する意味を有するものとして用いられ、債務名義となると解されているところである。

したがって、本件公正証書第七条の「本件公正証書作成に要する費用金一万〇、七〇〇円也は債務者の負担とする。」との文言の趣旨も、前記用例と同文であるから、債務者が債権者に対し債権者の出捐した公正証書作成費用の支払いを約したものとして、債務名義となると解するのが相当である。もっとも、「負担とする。」との文言は、一定の金員の給付を約する用語例としては必ずしも適当でなく原決定の如き解釈をされるおそれもあるから、公正証書作成費用の支払義務を債務名義とする場合には、むしろ「債務者は債権者に対し債権者の出捐した公正証書作成費用○○円を支払う。」と明確な表現をすることが望ましく、また、同条項はこれが執行受諾文言の対象となる旨を明記するのが適当と思料される。

してみれば、抗告人の申立にかかる本件公正証書作成費用金一万〇、七〇〇円は、執行費用には含まれないが、公正証書作成費用に関する支払約定として債務名義となり、したがって本件差押及び取立命令の請求債権となると解するのが相当である。

よって、原決定中前記申請を却下した部分は失当であるからこれを取消し、右判断の趣旨に従って原決定を変更することとし、抗告費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柳沢千昭 裁判官 浅香恒久 中田昭孝)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例